ピリピ人への手紙2章6節について その1

以前、o_r********さんが、YAHOO!知恵袋で、『キリストの父なる神が、「すべてにおいてすべてとなられる」とは?』というご質問をされたことがあります。

 

URLはこちらです。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14278294909

 

その中で、「フィリピ人への手紙2章6節」(2023/4/16 12:42)のみことばが取り上げられました。

 

o_r********さんは、その2章6節のギリシャ語「ἁρπαγμὸν(ハルパグモン)」をどのように訳すべきかについて、次のように語っておられます。
***
・・・日本の翻訳で例を挙げると、岩波書店版の聖書がその点で優れています。例えば、フィリピ人への手紙2章6節を見ると、本文では「神と等しくあることを固守すべきものとはみなさず」とあり、その「固守すべきもの」の注に、「直訳は『奪いとるべきもの』。」と書いてあります。この訳者は青野太潮という新約聖書学者ですが、この先生は、ὃς ἐν μορφῇ θεοῦ ὑπάρχων οὐχ ἁρπαγμὸν ἡγήσατο τὸ εἶναι ἴσα θεῷ の、ἁρπαγμὸν (原形:ハルパゾー)をそのように解釈することを「直訳」としたわけです。しかし直訳だから本来の意味とは限らないので、本文は別の訳にしておられるのです。
(2023/4/16 12:42)
***

 

引用文の6行目から、『・・・この先生は、ὃς(ホス) ἐν(エン) μορφῇ(モルフェーィ) θεοῦ(テウー) ὑπάρχων(ヒュパルコーン) οὐχ(ウ―ク) ἁρπαγμὸν(ハルパグモン) ἡγήσατο(ヘゲッサト) τὸ(ト) εἶναι(エイ―ナイ) ἴσα(イサ) θεῷ(テオーィ) の、ἁρπαγμὸν(ハルパグモン) (原形:ハルパゾー)をそのように解釈することを「直訳」としたわけです。・・・』とあります。

 

このように、ギリシャ語の原文が引用されています。

 

引用されたフィリピ人への手紙2章6節のギリシャ語は、12個の単語から成り立っています。
***
① ὃς (ホス)
② ἐν(エン)
③ μορφῇ(モルフェーィ)
④ θεοῦ(テウー)
⑤ ὑπάρχων(ヒュパルコーン)
⑥ οὐχ(ウ―ク)
⑦ ἁρπαγμὸν(ハルパグモン)
⑧ ἡγήσατο(ヘゲッサト) 
⑨ τὸ(ト)
⑩ εἶναι(エイ―ナイ)
⑪  ἴσα(イサ)
⑫ θεῷ(テオーィ)
***
の12個です。

 

( )内は読み方ですが、多少違っているかもしれません。

 

⑦の単語が話題となっている「ἁρπαγμὸν(ハルパグモン)」です。

 

「ἁρπαγμὸν(ハルパグモン)」は「ハルパグモス」という名詞の「単数」「対格」で、男性名詞です。

 

わたしは、『増補・改訂 新約ギリシャ語辞典 岩隈 直著』という辞典を持っています。

 

この辞典では、「ハルパグモス」の意味は、「強奪」「奪取」となっています。

 

そしてこの辞典では、その直後で、フィリピ人への手紙2章6節に言及しています。

 

言及している部分は、次のようになっています。
***
ピリ2₆(しかしここでは文脈上次の意味が考えられている)イ・・・強奪品;(α)奪取すべき獲物;(β)手に入れた獲物,(従って)手放したくない宝;ロ・・・幸運の賜物,偶然手に入ったもの(従って「これ幸いに利用すべきもの」).
***

 

「イ」の意味の中に「(α)」と「(β)」の意味があり、次に「ロ」の意味があります。

 

青野太潮先生の『奪いとるべきもの』は、この辞典では、「イ」の「(α)奪取すべき獲物」に当たる、と言うことができると思います。

 

この2章6節に言及している部分は、「解釈」になると思います。

 

辞典の言葉は「強奪」「奪取」であり、2章6節に言及している部分の意味は、この「強奪」「奪取」の意味から離れているからです。

 

つまり、「奪取すべき獲物」(上記辞典の語、イの(α))は「強奪」「奪取」から離れた意味になっている、ということです。

 

また、その辞典のフィリピ人への手紙2章6節に言及している部分に、「しかしここでは文脈上次の意味が考えられている」とあります。

 

「考えられている」ですから、「イ」以下の意味は、考えられている「解釈」、と言うことができると思います。

 

辞典の言葉である「強奪」「奪取」を用いた訳が、「直訳」になると思います。

 

この「強奪」「奪取」を用いた訳を作ると、次のようになります。

 

「οὐχ(ウ―ク) ἁρπαγμὸν(ハルパグモン) ἡγήσατο
(ヘゲッサト) τὸ(ト) εἶναι(エイ―ナイ) ἴσα(イサ) θεῷ(テオーィ)」の部分のギリシャ語は、わたしの直訳では、
***
神と等しいことを強奪と思わなかった
***
または、
***
神と等しいことを奪取と思わなかった
***
となります。

 

これら二つの訳が、「辞典の言葉」を用いた訳になります。

 

これらは直訳と言ってよいと思います。

 

その2、に続きます。