「新世界訳聖書」の日本語訳について(ルカ22章29節)

前回は、ルカ22章29節の原文の⑩の単語「βασιλείαν
 
(バシレイアン)まで、見ました。
 
今回は、④の「καθὼς」(カソース)から後の訳について、考えてみたいと
 
思います。
 
 
まずは、⑤の「διέθετό」(ディエッセト)を見ると、主語が「3人・単」で
 
あることが分かります。そして、⑦⑧は、「主格」を表していることが分かります。⑧
 
の「父」が主語であり、「父」は「3人称・単数」であるので、「父」が⑤の動詞
 
διέθετό」(ディエッセト)の主語であると特定できます。⑦⑧⑨は、
 
一まとまりなので、こうなります。
 
 
「わたしの父は処理した・~に譲った・~に委任した」
 
 
⑤の動詞と⑦⑧⑨の「主語」の間に、⑥の「μοι」(モイ)「わたしに」がありま
 
す。「わたしに処理させた」ならいいと思いますが、「わたしに処理した」というのは、
 
日本語として成り立ちにくいと思われます。したがって、「処理した」という訳語は、
 
除外していいと思います。そうすると⑤~⑨は、こうなります。
 
 
「わたしの父はわたしに譲った・わたしに委任した」
 
 
そして、⑩の「βασιλείαν」(バシレイアン)は、「王国を」「王位を」
 
「王権を」というような意味ですから、⑤~⑩は、こうなります。
 
 
「わたしの父はわたしに王国を・王位を・王権を譲った・委任した」
 
 
訳語の候補がいくつかあります。どの訳語を選択するかは、文脈、あるいは前後
 
関係によると思われます。わたしは、聖書の場合は、近くの文脈だけではなく、「遠
 
くの文脈」も考慮する必要があると考えています。今は、新約聖書の文の訳につ
 
いて考えていますが、その訳語を選択する場合、場合によっては、旧約聖書の内
 
容を考慮しなければならないと思います。したがって、わたしには、訳語の選択は
 
簡単にはできません。
 
 
今の場合、「バシレイアン」の訳語は、「王国」を選択するのがよいのか、「王位」を
 
選択するのがよいのか、あるいは「王権」を選択するのがよいのかは、なかなか、
 
決められません。
 
 
例えば、「新改訳」では、「王権」という訳語が採用されています。また、「新共同訳」
 
では、「支配権」という訳語が採用されています。そして、「新世界訳」では、「王国」
 
という訳語が採用されています。
 
 
「新改訳」と「新共同訳」の場合、「バシレイア」に対する訳語は、場所によって、あ
 
るいは、場合によって、さまざまです。
 
 
これに対し、「新世界訳」では、すべては見ていませんが、見る限りでは、「バシレ
 
イア」に対する訳語は、「王国」となっています。「一貫している」と言えるのではな
 
いか、と思えるのです。
 
 
ある意味、「分かりやすい」と言えます。
 
 
ほかにも、いろいろとあるのですが、わたしは、「エホバの証人」になる人がなくな
 
らない、あるいは、「エホバの証人」になろうとする人がいる、というのは分からな
 
いではない、と思います。
 
 
ものみの塔」の聖書研究は、聖書についてあまり知らない、聖書をあまり読んだ
 
ことのない人にとっては、「魅力的」な面があると思います。『洞察』という本は、か
 
なり詳しく、聖書や聖書に関連すると思われる事柄について、書かれています。
 
 
いわゆる、「はまる」人がいても不思議はない、と言えると思います。学問的な面
 
も見えるので、知的好奇心をくすぐられる人がいても、不思議ではない、と思い
 
ます。
 
 
エホバの証人」の人は、「ものみの塔」の考え方を受け入れ、「ものみの塔」の考
 
え方のみを受け入れるのではないかと思います。「ものみの塔」の考え方に、深
 
く「はまって」いればいるほど、そこから抜け出すには、「反動」が大きくて、抜け出
 
そうとすると、「うつ病」になったり、「うつ病」とまではいかなくても、「うつ状態」に
 
なったりするのではないかと思います。
 
 
うつ病」になったり、「うつ状態」になったりする、ということを知ると、「エホバの
 
証人」をやめるようにとは、なかなか言えないのです。
 
 
ただ、「ものみの塔」の聖書についての考え方は、一面、深く、詳細にわたる、と言
 
えるのですが、反面、非常にお粗末である、ということを「エホバの証人」の方に
 
知っていただきたいと思って、この記事を書いています。「エホバの証人」の方の
 
目に、この記事が触れれば、その方が、考えるきっかけになるのではないか、と思
 
うのです。そう簡単ではない、とは思いますが。
 
 
このような事情もあり、ルカ22章29節の「バシレイアン」は、「王国」という訳語を
 
用いて、説明を続けたいと思います。
 
 
すると、こうなります。
 
 
「わたしの父はわたしに王国を譲った・委任した」
 
  
 
次回につづきます。