「新世界訳聖書」の日本語訳について(ルカ22章29節)

前回、ルカ22章29節の原文の②の単語「διατίθεμαι
 
(ディアティッセマイ)まで、見ました。
 
今回は③の「ὑμῖν」(フミーン)から、説明します。
 
辞書で調べた結果と、その訳例が、こちらです。
 
ὑμῖν
σύの複・与
あなた
あなた方に
 
③「ὑμῖν」(フミーン)は、「σὺの複・与」である、となります。「σὺ
 
(スゅ)は、「あなた」「君」というような意味です。「複」は、「複数」の略です。「複数」
 
なので、「あなた方」「君たち」となります。「与」は、「与格」の略で、「与格」は、『新
 
約聖書ギリシア語入門』(大貫 隆 岩波書店)の11ページに、こうあります。
 
 
「与格は個人的な利害関係を表すことが多い。また、「言う」「告げる」「書く」「与
 
える」などの動詞の間接目的語として用いられる。」
 
 
「間接目的語として」というのは、基本的には、「~に」という意味で、ということです。
 
「あなた方」「君たち」の「与格」というのは、つまり「あなた方に」「君たちに」という
 
ことです。
 
 
①から③までをまとめると、こうなります。
 
 
①「κἀγὼ」(カゴー)・・・「そして・しかしわたしは」
 
②「διατίθεμαι」(ディアティッセマイ)・・・「(わたしは)に譲る・
 
に委任する」
 
③「ὑμῖν」(フミーン)・・・「あなた方に」
 
①~③ 「そして・しかしわたしは、あなた方に譲る・委任する」
 
 
次に、④「καθὼς」(カソース)について。辞書で調べた結果と、
 
その訳例が、こちらです。
 

καθὼς
副詞
(ちょうど)~のように、~通りに
 

 
 
④の「καθὼς」(カソース)は、「副詞」で、意味は「(ちょうど)~のように、
 
~通りに」となります。
 
 
次に、⑤の「διέθετό」(ディエッセト)について。辞書で調べた結果と、
 
その訳例が、こちらです。
 

διέθετό
διατίθημιの間・二過・直・3人・単
処理する、に譲る、に委任する
3人・単は)委任した

 
 
⑤の「διέθετό」(ディエッセト)は、「διατίθημι
 
間・二過・直・3人・単」である、となります。「間」は、「中間態」の略で、「中
 
動相」ともいいます。「中動相はギリシア語に独特な相で、行為の結果が何らかの
 
形で主語に再帰する場合に用いられ」(上記『新約聖書ギリシア語入門』 7ページ)
 
ます。前回の②の「διατίθεμαι」(ディアティッセマイ)を
 
参照してください。
 
 
二過」は、「第二不定過去」の略で、「第2アオリスト」ともいいます。上記『新約聖
 
ギリシア語入門』の63ページに、「アオリスト」について、こうあります。
 
 
「アオリストは単純に過去の行為を、それが起きた時点を特定せずに表現する」
 
 
「アオリスト」は、「単純に過去の行為を・・・表現する」ということです。
 
 
「直」は、「直説法」の略で、「ごく大まかに言えば、直説法は確定した事実を述べ
 
る場合・・・に用いられる」(上記『新約聖書ギリシア語入門』 7ページ)ということ
 
です。
 
 
「3人」は、「3人称」の略です。「彼」「彼女」「それ」「彼ら」「それら」などのことです。
 
 
「単」は、「単数」の略です。
 
 
そうすると、「διέθετό」(ディエッセト)の意味は、こうなります。
 
 
「(3人・単は)処理した・~に譲った・~に委任した」
 
 
次に、⑥の「μοι」(モイ)について。辞書で調べた結果と、
 
その訳例が、こちらです。
 

μοι
ἐγὼの単・与
わたし
わたしに

 
 
⑥の「μοι」(モイ)は、「ἐγὼの単・与」である、となります。
 
ἐγὼ」(エゴー)は、「私」で、「単」は、「単数」、「与」は、「与格」なので、
 
ἐγὼの単・与」は、「わたしに」となります。
 
 
⑦の「」(ホ)と、⑧の「πατήρ」(パテール)と、⑨の「μου
 
(ムー)について。
 

冠詞
男・単・主
 
わたしの父が
πατήρ
男・単・主
父は
 
μου
ἐγὼの単・属
わたし
わたしの

 
 
⑦の「」(ホ)は、「冠詞」で、「男性」「単数」「主格」を表します。
 
⑧の「πατήρ」(パテール)は、「男性名詞」で、「単数」「主格」になります。
 
意味は、「父」などです。
 
⑦の「冠詞」は、⑧の「男性名詞」「パテール」に付くものです。
 
⑨の「μου」(ムー)は、「ἐγὼの単・属」である、となります。
 
「属」は、「属格」の略で、簡単に言うと、「~の」を表すもの、です。
 
そうすると、「ἐγὼの単・属」は、「わたしの」となります。
 
⑦⑧が「主格」なので、⑦⑧⑨は、「わたしの父は・が」となります。
 
 
最後に、⑩の「βασιλείαν」(バシレイアン)について。
 
辞書で調べた結果と、その訳例が、こちらです。
 

βασιλείαν
Βασιλείαの単・対
王国、王位、王権
王国・王位・王権を

 
 
⑩の「βασιλείαν」(バシレイアン)は、
 
βασιλείαの単・対」である、となります。
 
βασιλεία」は、「バシレイア」と読みます。
 
「対」は、「対格」の略で、上記『新約聖書ギリシア語入門』の11ページに、こうあり
 
ます。
 
 
「対格は主に他動詞の目的語を表すために用いられる」
 
 
「~を」を表す、といってよいと思います。そして、「βασιλεία
 
(バシレイア)は、「王国」「王位」「王権」といった意味があります。そうすると、⑩
 
の「βασιλείαν」(バシレイアン)は、「王国を」「王位を」「王権を」
 
というような意味になります。
 
 
次回につづきます。